2014年12月31日水曜日

群雛2015年1月号、ちょっと出遅れレビュー・すいません大掃除してて遅れました。


 はいー、月末恒例・「月刊群雛」レビューです。2014年のフィナーレ。

 大掃除してて公開が遅れましたー。すでに大晦日ですね。スマヌ。2015年1月号はもう発売になってます。

 ではレビュー、掲載順に。いつも敬称略すみません。

電子書籍で1000万円稼げちゃいました(後編 /鈴木みそ・鷹野凌


 インタビューの後編。前編(前号)でもそうだったけど、さらに、うひゃあああ。
 ほんと、まさにそのとおりです! な話の連続。

 私も個人的にKDPとかダイレクトパブリッシングやってて、そこでKADOKAWAとかの「無慈悲なセール攻勢」見てて思ってたことのそのまんま。出版社がどんどん容赦無いセール攻勢で電子書籍に入ってきたからねえ。
 でもみそ先生もそう思ってるのか、と思うと、すごく心強い。

 結局、もとからあったマスのブロックバスター的な出版と、ニッチを拾っていくロングテール的な出版の両方が、いずれそのまま是非に関係なく電子の世界に移住するというのはそうだし、それが具体的に進んでいるし、そこでの作者としての生存戦略も、結局はおなじだなあ、と。
 思っていたけれど、それをみそ先生に言われると、ぐっと重いよね。しかもウラ話まで含めてほぼ洗いざらいざっくり全部。生々しい。

 で、その軽妙な語り口の中身の重い言葉でみんなが応援されてる。

 電子書籍の世界もまた、やっぱりユートピアでもディストピアでもない。だからといって、拒否したところでどうになるもんでもないし、可能性もおんなじ。テクニカルなところは少し違っても、本質は変わらない。

 個人的には、電子書籍がもう闘いの「前線の向こう」ではなく、「前線」になったんだなあ、と思うところもあるけど、みそ先生もそういう感じらしい。空挺作戦で奪って形勢を逆転できる目標ではなくなったというような。主戦線が追いつきつつあるという。
 それでも戦うしかないんだけどね。

 さあ、みんな、新年もがんばっていきまっしょい。


計算する知性ver1.5 最終回/夕凪なくも


 おおー。終わった。ほんと、連載お疲れ様でした。

 SFとしてモチーフ的にドンドン広がっていって、さらに作品世界の深みに。閉鎖病棟、研究室とサイコホラーSFな感じから、さらに。

 連載は終わったけれど、さらに他のバージョンとの連携でさらに楽しいという趣向もありという。

 終わり方として、ホラーなこの作品世界にふさわしい最終回に思う。いやー、SFだねえ。

 作者のモチーフの持ち方からいって、これからどんどんさらにシリーズで掘り下げられるのも楽しみ。


芝浜 ~ヒキチートなオレと最強幼馴染みの下克上がまた夢になるといけない~/小林不詳


 うん、落語「芝浜」の現代ラノベSF版。しかもしっかり期待を裏切らない仕上がり。

 ほんと、きっちり芝浜なのがいい。しかもガジェットでラノベではできない落語「芝浜」の演出を、SF仕立てでうまく再現している。うまい! ラノベであれは本来できないもんねえ。

 ちなみに、落語「芝浜」には昔から批判がある。女性の造形の問題とか、ちょっと主人公に対して残酷ではないかとか。

 それも確かにあるんだけど、この作品ではそれをちゃんとクリアしてる所がいい。なるほどなーと思った。ラノベで芝浜を演ることの意味はそこにもあると思う。

 モチーフがブレなかったことと、ガジェットの選択がすごく成功してると思う。




詩人とアヴナルレ/痛風亭ゑびす


 詩好きがしっかり描写されてて、心地よい。主人公の退廃の方向ではなく光の方向の詩という好みのせいか、作品世界全体も澄んだ明るい予感が見える。

 タロットの「星」のカードみたいな感じ。

 そしてその主人公と対話するアナという少女への思い入れも伝わってくる。

 こういう子に私も会ってみたいなあ。それが他のキャラクターとどう絡んでくるかも楽しみ。




デリヘルDJ五所川原の冒険/ハル吉


 いつもながらいろいろと面白いのはDJとかレコードの世界がすごく魅力的に描かれてるからだと思う。

 うひゃひゃ、KASRACとか出てきたりするのもウケた。固有名詞がいちいちキテル感じになってるところとか、演出も音楽的で楽しい。

 私的にもとても好きな小説。これからの冒険も楽しそう。全体的なノリが良い。

 レビューは短くなってしまったけど、だらだらとした私のレビューを読むより、とにかくこの作品読んでほしいなあ。ほんと、楽しいから。




日本/竹島八百富


 うん、私も最近、こういう気持ちになる時あるよ! と思う。

 もうやんなっちゃうよね。「安全安心の国」とかヘーキで政治家もマスコミも言ってるけど、クソくらえだよね! ほんと。まじめに考えれば考えるほど、あちこち理屈でも現実でもオカシイ状況になっていってるもん。ほんと、正気で言ってるの? と思っちゃうことが多すぎる。

 そういうオカシイところを、やけっぱちながら書ききってるところがちょっと痛快。チープめに書いてるのも合意するところ。本気でまじめに問題に向きあえば向き合うほどバカを見るこの世の中だもん。私も内心、心底アホか、と思いつつ今日も私は首からIDカードぶらさげている(谷川俊太郎センセー風味)という。

  私的な結論は結局、「どうせみんなそのうち死ぬから無問題!」というものだったんだけど、この作品もSF的なディストピアを乾いた感じに書いてるのもそうだよねと思う。

 日本の法律家たちが自分の仕事を「所詮永遠につづく溝さらい」と言ってるのとか、どうせいろいろあって破滅して焼け野原になってもまた「山河あり」なんて言っちゃうんだろうな-と思うと、虚しいけれど、それはそれで誰かが書かないといけないことなんだと思うし、そういう意味で、すこし私も日頃の胸のつかえがおりたのです。私にはなかなかできないことなので。



天才と狂人 対話篇/君塚正太


 日本文学の衰退について。哲学からの文学への批評。

 ライトノベルのモラリズム批判とか、描写にこだわっての深みのなさとか、かなり考えさせられる。

 なんとなく異常と正常という軸と、モラリズムとそれに対するものという軸で考えてしまうと、うぐぐ。でも同意するところもいくつもある。というか、ここまでガッツリ文学論したのはこれまでの「群雛」ではなかったんじゃないかな。
 私的にはここからポスト構造主義とか記号論とかにどうつながっていくのかが楽しみに思えた。

 哲学から見た文学史という感じでいいと思う。ザックリここらへんのことを冗談っぽく書いたのに筒井康隆センセーの「文学部唯野教授」があるのだけど、それとは若干視点が違っていて楽しい。

 あと、職業作家批判というのも、私的には合意するところだったり。そういうところから、インディーズ文学に向けての応援になってるのもいい。




夢二夜/米田淳一


 これ書いたのはだれだ!! って私だ-(自爆。

 今回「芝浜」狙いでネタかぶりしてる。しかも私的にはちょっと不満足だったり。

 モチーフの持ち方が悪かったかな。すごく反省。

 眼高手低がおもいっきりバレたと思う。スマヌ……。他人の作品を言うのに自分は下手という。勉強のやり直ししなきゃ。




雪原のing/初瀬明生


 うまい。「雪密室」という推理の定番を思い出したけど、そのため以上に、描写に雪国の感じがすごく伝わってくる。

 私はテツなので、舞台となる駅がついどこらへんの駅かな、と思ってしまう。ちょいと大きめの駅で、2本ホーム、東西に走る線路、防風柵に防風林。跨線橋がちゃんと風よけがついていたりと、雪国育ちの私にはぐっとくる。うんうん、雪国だねえ。雪が降るとあのあたりって、水墨画みたいな白と黒の風景になるんだよね。

 雪深い山形の、とある駅のホームから人気のない方向へ伸びていく雪についた足跡。その足跡の主は…。

 過不足ない描写。シャープな筆致がいい。クライマックスもきちっと描かれていていい。

 そう、しんどいよね、あれは。でも、人間はそういう不条理に出会うこともある。いい話なんだけど、きちっといい話を良い描写で書くってのは、なかなか難しい。実力あるなあと思う。




ご飯の時間/晴海まどか


 これまでキャッキャウフフと褒めていたのに! なんと!

 なるほど、と思う。書ける幅が広いなあ、と思わされた。ヤラレタ!

 でも、実はこの怖い感じ、グロい感じってのは、実は心理的にはこれまで「キャッキャウフフ」と勝手にレビューで書いてすまなかったけど、でもそういう少年少女期の不安定さを秘めた精神形成の途上の心象とつながってると思う。一見明るく快活に見えても、その影ではすごく不安定な。だから実はグロくてホラーなことしたりしてることもある。

 よく報道される少年犯罪とかで不可解で猟奇的なものがあるのも、実は体の成長、とくに性的な成長と頭がうまく合致しない思春期特有のところなんだよね。で、思春期はみんな過ごしてるわけで、それがどういう形で大人に固まっていくか、それがいかに切なく寂しいことかというのは普遍性を持ったテーマだし、そこをモチーフにして、それを明るいけど不安定、に書けてる、というのが「キャッキャウフフ」と書いてた私のイメージだっだの。ごめん、ちゃんと書かなくて。

 でも、そのモチーフが持てて、掘り下げができている証明みたいな感じに書けてる。さすがである。




Illumination/青海玻洞瑠鯉


 詩集。

 インタビューでモチーフが書いてあるのに気づかず、詩の方を先にじっくり読んでしまい、インタビューをあとで見て、「うわっ! ヤラレタ!」と思った。

 ほんと、狙い通りに精密に描かれてる詩だと思う。直接書いてないのに季節感が出てるところとか、ほんと、行間に込められたものがはっきりしてて、それでいてリズミカルに軽やかに読めるのがいい。これもとにかく読んで感じてほしい。

 作品は「考えるものじゃない、感じるもの」ってブルース・リーだっけ? みたいに思うのです。まず感じること、感性を澄ませて読む。そこに文芸や詩の楽しみがあると思うし、それを信じてるし、こういう詩に出会えると面白いのです。




迷い犬/婆雨まう


 イヌ好きだと特に泣ける………。命ってそうかも。ぐすん。そうだ、これから嘘泣きするときにこの話を思い出そう(ヒドイ でもしっかり可愛く、儚く、切なく書けてる。

 犬の可愛さってのは、ネコの可愛さと違うと思う。犬はすごく飼い主とか家族に信頼置いて、すごく親しんでくれるのね。ほぼ無条件に。すごくデレデレ。すごくそこら辺暖かくて熱い。ネコはその点、アンタなんかしらねーよ!という態度取ったりするけど、でも時々こっそりデレる。

 その犬の可愛さが書けているだけに、そのあとの運命における切ない悲しさも出てる。

 物語の演出には「高低差」も大事。その高低差がよく出てる。
 モチーフを選んだ時点で成功してたけど、そういう演出でも成功してると思う。(´;ω;`)ブワッ。




不揃いのカーテンレール/玉木亡一朗


 冒頭、すっごくセンテンス長っ! と思うけど、これが演出になってる。うだるような夏の深夜のテンションでやっちゃうこと。それが就職してサラリーマンになって過ごす日々。

 小さなネタがつながる日常系、しかもおもいっきり等身大な感じに私も共感してしまった。ちなみにライフ、ってのはもともと文学の主題であったし、そこで文学ってのがすごく重要と思われたり、規範になるとか批評になるとかのもとだった、ってのが私の文学観だし、筒井センセーの「文学部唯野教授」にも初期の文学はそんなのだったって書いてあったような。

 生きることと文学って、やたらとつながってる。遠い未来の絵空事みたいなSFですら、結局自分が出ちゃう。だったら自分をどんどん出しちゃえと思ってる私なので、等身大な文学も当然好き。等身大な話を等身大に、読ませる力を持たせて書くってのは実は難しい。もともと表現はどうやっても自分の表現であり、自分が出るんだもの。そこにこそ普遍性もでるし、その普遍性が共感を呼ぶ。そしてその共感が魅力につながると思う。

 そういうところの魅力を感じました。かなり共感する。




表紙/三島花鶏


 おめでとうございますー!!!! な表紙。金背景!!

 花札っぽいのもまたいい趣向。

 良いですなあ。そういや「群雛」が迎えるはじめてのお正月だもんね。

 大変めでたくてとてもいい。相変わらず群雛は表紙に恵まれてるなあ。




あとがき


 TANABEさん、おつかれさまです。ほんと、月月火水木金金なんですよね、フリーは。仕事納めとは単に客先と連絡が取りにくくなるだけだもんねえ。しかも客先によっては「休み明けに上げるように」なんておにちくなオーダー出したりするんだよね……。

 晴海さん、たしかに面白いって難しいです。キモかわいいとか、ほんと、考えれば考えるほどドツボに。ああ、今回私もそれにハマった感が。あああああ。

 竹元さん、おつかれさまですー。年末進行の年末進行が重なって、なんという……。スマヌ……私にはなんの力にもなれぬ…‥。
 校正の話、ほんと、身にしみます…。ありがとうございます。作者自身による校正ってなかなかうまくいきませんものね。

 鷹野さん、うわあ、群雛の次のステップってなんですかー? きゃー、行かないでー、私を置いて行かないでー(すがりつく)、なのかなあ。今のところ私には想像もつかない。
 でも想像もつかないところが楽しみだったり。
 電熱のブランケット、私も好きです。昔青森に住んでた頃はよくお世話になったなあ。




総括


 群雛の迎えたはじめてのお正月。表紙がおめでたく、芝浜もあるところは新年号らしい。(私のは…(´;ω;`)ブワッ とても反省してます)

 でも、ほんと、着実に歩んできた成果と思う。

 次号で1周年。執筆と編集とデザインのみなさん、1年間本当にお疲れ様でした。

 来年も楽しい本と作品をよろしく! ……私もほんと、頑張らなくちゃなあ。




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