2015年1月29日木曜日

発売直後・『月刊群雛 (GunSu) 2015年 02月発売号(1周年記念号)』レビュー!!


月刊群雛2015年2月号本誌の方のレビューです。こっちには私は原稿書いてないけど、読んで面白かった。

 あと、2月号本誌と別冊の概観、総括も。ほんと、次のステージへ、なんだなあ。

 ちなみに別冊の方のうちのレビューはこちら。>>


■「ハハとムスメ」 ココキユミ

 面白いなあ、なんか日常系のマンガみたいな軽妙さだな、ありそうだけど、なかなかこれはうまく書けない日常だな、それがよくでているなと思ったら……、あれれれれれっ!! なんと!!

 よくわかんない、って作者さん、インタビューで書いてるけど、この奇妙さ、シュールっていうのがこの作品の味わいだと思う。

 すごく地の文が安心して読めて、シーンの描写も安定しているだけに、内容のシュールさがより効いている感じ。

 コミカルで、凄くシュール、そしてすごく読後感がすごく切ない。だけど、やっぱりコミカル。それがいい。読後感がホント、切ない。

 すごく個人的には無茶ぶりだけど、このあとどうなっていくのかも、いつか書いて欲しいなと思ったり。「SFぢから」がある感じに拝見したので、すごく期待してしまう。



■「デリヘルDJ五所川原の冒険」 第5章 ハル吉
 
 おお、どんどん軌道に乗ってきた感じがする。素敵な感じ。
 DJの冒険、今回は子供相手だっ。子供相手にDJがキマるのか!っていうところ。

 ううむ、これは実際やってるところがすでに頭に思い浮かんで楽しいけど、これはさらに「のだめカンタービレ」(古い)みたいに実際に映像化・ラジオドラマ化されたらすごく聴きたいぞっ!! 音楽が聞こえる文章がいい。
 織り込まれた音楽ネタ、子供ネタが細かく、とても楽しい。よく細かく作りこんでるなあ。それでいてするすると世界に引き込まれる。とても好ましい。
 そういや作者さん、定期的にGoogleハングアウトでDJやってらしたっけ。今度拝聴してみよう。これはもう聴かずにいられない。イカス。とても好み。うまい。すごく読後感がいいよね。




■「新約幻想ラボラトリー」 花笠香菜

 うおお、SFだっ。まごうことなきSFだっ。

 未来世界の研究所が舞台。シーンがすっと思い浮かぶのが、私にも、SFそのものには詳しくはないけどSF大好きな血が流れているので、それが騒いでしまうのだと思う。

 小難しさに陥らない、感じの透き通ったいい感じのファンタスティックさが素敵なSF世界を作っている。ディテールの積み重ねもいい。

 なるほど、結構そういう情報源もあるのか。それは強みだし、それがよく活かされてるよなあ。
 懐かしの「理系だけど文学わかってる人」が書いたSFのような、頭の明晰さを感じて、読んでいて心地いい。往年の瀬名秀明さんを思い出しちゃったよ。

 スッキリ読めて、それでいて緻密で繊細。
 こういうのって、サクサク読めるけど、書く方はすごく地味に時間かかるんだよね。

 これは本編を俄然読みたくなる感じ。成功していると思う。




■「異世界構築質問リスト5」 神楽坂らせん

 労作のツール最終回。本当におつかれさまでした。こういうものがあるのが「群雛」の人たちのなかの楽しさと有効性、意義あらしめられてるところだよね。ただの群れじゃないところ。

 最後まで秀逸である。日常生活篇であるが、そのなかの、

「排水管が逆流したとき、あなたは誰に電話しますか」だけでも、なるほどねえと思う。さすが。

 この一つの設問だけで、世界観作りこんでたら短編がかけちゃうよ。というかそれぐらい作りこんでないとね、と思う。上下水道と衛生システムの問題は深いもん。ほんと、作家としてちゃんと書いていきたい人は、これを例題と思って書いてみるといい勉強になると思う。「オレは現代ものしか書かん」なんて人、言い訳は不可。現代小説としてこれを書いてみるべし。慣れてきたら、それをテイスト変えて作ってみるのもいい。ドキュメンタリー、ホラー、サスペンス、推理とそれぞれ書けるはず。

 ほんと、チェックリストと言いながら、世界観を構築するだけじゃなく、構築したものをモチーフに応用して話を書くヒントがどっさり。有益だなあ。ツールとしても、読み物としても。

 お疲れ様でした。豊富な読書量が遺憾なく発揮されたと思う。
 連載終了後も楽しみ。またいろいろやってみて欲しいなあ。



■「とある精神病者の手記」 君塚正太

 いきなりズシッととタイトルから重い。そして本文もぐぐぐっと重い。書かれている考えていることのぐにゃっとしたウネウネ感がほんと、独特のこの病の感じだよね。私も罹ってるからすごく分かる。若い頃、こんな感じだったなあ。私もこういうの書いてた頃しんどかった…。でも、ほんと、この病は書き留めて、考えをすこしずつ固定しながらやっていくと予後が良い。とくに症状を明確に言えるようになると医師も治療の方針が立てやすくなるし。

 リアリティというよりリアルな作品だなと思った。



■「ワナビ売上げでコロッケを買う」 婆雨まう

 エッセイ。真摯に書かれてて好感が持てる。でもほんとのことだよね。とはいえ、このホントのところに辿り着くまでどれだけしんどい思いをするか。
 私もほんとだよ、と思うまでいろいろあったよなあ。正直、ありすぎた。
 でも、KDP作家と読者、という関係についての記述は面白いかも。
 それはこれまでの既存出版、紙媒体の出版とはかなり違う観点だから。
 そこらへんの掘り下げを期待する方は本編読みたくなるなあ。




■「井の頭cherry blossom ~restart~ The Blue Marble」
   くみ / 魅上満(イラスト)

 連載第4話。まさにブルーマーブルな色彩の文体世界な宇宙開発も、だんだん宇宙に近づいてきた。2人のさまざまな周りの話も充実してくるし、また2人の関係もまた深くなっていく。とても繊細な世界。

 個人的に宇宙は荒々しい世界だと思う。熱媒体になる空気がないので、日向は灼熱、日陰は極冷というだけで構造物、宇宙ステーションや宇宙船、宇宙服はすでに過酷環境。そのうえ宇宙放射線もあればデブリもあれば、運動する物体は物理法則のまま、容赦なく運動し、衝突するときは運動エネルギーそのままに破壊をもたらし、離れるときには容赦なく永遠の別れとなる。まさに極限の世界だと思う。

 作品世界も、宇宙船があるとはいえ、技術的にまだ宇宙が私の作品のように普通に観光に行けるとかでない。まだ宇宙開発時代で、民間による宇宙開発が進んでいくところで、この繊細な二人がどうやってそれに向かっていくか。しかし決してそれは英雄譚ではない。英雄ではない優しい二人が、互いをいたわり合い、愛しあう。着実に近づいていく宇宙を前に、切なさもまた大きくなっていく。

 話が進んでいくのがもどかしいようでいて、実は怖くも切なくもあるその物語が、また一つ進んだ。

 挿し絵も相変わらず綺麗である。カラーでもご覧ください。紙で買っても電子版読めるし、電子版は端末をかえればカラーで見られますので。




■「Fと成りうる者」 初瀬明生

 「祠に触ると死ぬ」という都市伝説、噂の話。第二次世界大戦のころの話が絡んできたり、その噂を広めたと思しき高校生が……。

 ほんと、日常の中でも暇で退屈な高校2年を過ごす二人のなかに、その噂が、少しずつ小さ変化、違和感を起こしていくホラー。

 そのすごく小さな違和感が、どんどん広がっていくのだろうけれど、読んでいる私の心にもそうやって広がっていくので、そこでサンプルとして成功していると思う。
 すごく気になってしまう。まだ小さな変化だけど、すでにそう思わせる力がある。本編読みたくなってしまう。



■「頽廃のキルケゴール」 晴羽照尊

 ひきこもりの幼なじみの「あーりん」と私が、生きることと死ぬこと、デジタルなtrueとfalseしかないような世界のなか、高校時代を生きている話。記憶、意識、心、解釈、そして選択の世界。
 その言葉のその内奥にはほんと、あの自我が不安定な成長途上の生きにくさへの苛立ちが流れている。
 そしてその苛立ちの季節をを乗り越えるには、選択じゃない選択しかないけど……。

 ううむ、私も歳取っちゃったなあ、と思わされた。
 私みたいな40歳超えたおじさんになると、こういうの、正直、書けなくなっちゃうんだよね。いろいろと難しくて。でも興味をもたせる。


■「ヴェニスンの商店」 波野發作

 SFだけどスペースオペラ、というほど仰々しくない。とはいえガジェットはすごく入り組んで凝った作品。というか、この作品、物語性よりガジェットの多彩さがモチーフなんだと思う。

 そんな多彩なアイディアあふれるガジェット満載の作品世界のお話。

 これも私には書けない世界だなあ。世界観としてはありなんで、興味深いけど、やっぱり書けない。そういうところで興味を持った。

 個人的にはこの世界の技術的な発展の歴史がどうやってこうなったのかがすごく気になる。文明というか技術的には、いろいろアンバランスなんだけど、それでも全体として交通とか通信とかが恒星間でバンバン行き交ってるのがどうやって成立してきたのか。
 現代的な文化もある世界なのに、そういうどこかちょっと懐かしいSFの匂いがあると思った。そういやスラップスティックSFなのね。




■「八」 竹富 八百富

 うわあああああ。
 音大を舞台にしたホラーなんだけど、血が流れるわけでも死人が出るわけでもない。怪我すらしない。

 ただ、鬼教師の鬼っぷりがすごい。いやすごいなんてもんじゃない。

 だいいち、ふるってるのがこの鬼先生の登場の時の言葉! ほんと、「バトルロワイヤル」のビートたけしのやった教師の音大教師版か、っというよりずっと怖い!

 マジで怖い! 異色だけど、まさにホラー。こええええええ! そういうところで成功してると思う。でも、さらに、これ、そういうことなのか…ぐわああああ。すげええええ。

 余計に書くとほんと、この話の凄さをスポイルしてしまうので私からはこれ以上は差し控えるけど、これはぜひ読んでください。マジで。



■表紙 雅日野琥珀

 おおー、月刊群雛2014年3月号の表紙の方だー。安定してるなあ。
 1周年にふさわしい、綺麗で素敵なイラストである。まさに眼福。物語性もあるけど、まとまりもよく、綺麗だねえ。


■編集後記

 くつきちよこさん、はじめましてー。おおー、編集に新メンバーとは心強い。よろしくですー。

 晴海さん そうなのですかー。人に歴史ありですねー。今私もすこしお勤めでそういう仕事してます。真似事ですけどね。ほんと、色んな発見がありますよね。

 竹元さん 本って不思議ですよね。何がきっかけになるかわからないです。でも、世にでるべき作品は、何があっても世にでるんですよ。売れる売れないを超越して。でもそれだと商売は成り立たない。難しいけど、だから群雛が面白いし、こうして私もレビューを書いちゃうんですよ。

 鷹野さん なるほどですー。実は私のお勤め、その日本独立作家同盟の次の展開の形態に少し係る仕事なんですよー。私個人はアドバイスできるほど詳しくないのですが、今度お勤め職場にその関係の役所の人が説明に来たりしますよー。ともあれ正しい方向だと思いますー。





■■で、総括。


 別冊のレビューの方に総括書いてませんでした。すまぬ。というわけで2冊まとめて。

 で、この月刊本誌のほうと別冊同時刊行。2冊読んで、どちらも素敵でした。別冊も楽しかったけど、月刊の方も楽しかった。でも鈴木みそさんが言ってたように、別冊のテーマ特集という雑誌としての方向が決まってるのもまた面白いいなあ。でも群雛のもともとの福袋的な性格も捨てがたいので、2冊刊行というのは良かったと思う。


 そこで今回から初回定価が改定されたのもまたあり得る方向だなと思う。やっぱりお金払って読んでもらうというのは、読む人に対する意識が違うから。

 買いやすくなったけど、でも結構こういう電子書籍って、価格より取引コストの問題が結構デカイのね。そこで多ストア展開も正しい。それでも買ってくれる方がいるのはありがたいんだけどね。でも、リピーターがついて毎回追っかけてもらうとか、さらにはとりあえず買っておく、という需要を目当てにするというやり方が群雛みたいな存在にいいかどうか、というと、じつはどっちでもない気がする。


 ただ、価格を変更できるっていう柔軟性ってのは、十分実験していいことだと思う。新しく買いたいって人が増える可能性もあるし。それに少しずつ、書き手も編集さんもまた新たな人が入ってきているし、そういうところでの事業継続性ってのを考えると、今後の方向へも正しいと思う。


 あんまり気の利いた言い方でないし、役所的で好きな言い方じゃないけど、でも群雛って、インディーズ作家支援ってのが、「社会実験」に進んでる気がする。

 ダイレクトパブリッシングってのが、実際はこれまで個人<対>複数個人だったんだけど、それが幅が広がって、同志<対>社会になってきているなかで、文芸の未来はどうなるかを探る、実験のような。

 もともと雑誌ってのは団体戦で、そのうちの誰かを目当てに買うと、一緒に掲載されてる新人を読者に発掘してもらえる、っていう考え方もあった。

 それが、商業的な要請で、どれかが当たると、その方向に最適化してその方向の作品をずらりと並べる、ってのもやられてきた。でもそれでコケたのが最近の一般企業だったりする。最適化しすぎて、状況が変わると簡単に対応できなくなるというのだけど、紙の雑誌でもそれが結構あった。


 で、彼らも今悲惨になってるけど、でも考えてみると、それって単なる損益分岐点の移動の問題だった気がする。

 だいたい、もともと利益が簡単に出せるようにコスト圧縮ができれば、昔みたいに最適化にこだわらず、編集部の編集力を自由に発揮した雑誌づくりもできると思うのね。ただの貧すれば鈍するだけなので、それがコストの問題が解決すれば、それでオーケーみたいな。

 となると、群雛のアドバンテージみたいなもんは、実はヤバイことになる。なにしろいずれ紙の雑誌がどんどん雪崩を打って電子に移行してくると思う。今は彼らは変化に対して怯えているけど、いよいよ割に合わなくなったら、イチかバチかでそうするだろう。

 その時が早ければ、紙雑誌の編集部の資産であった編集力が、そのまま電子に持ち込まれる。そして、自由を彼らは取り戻す。それに群雛みたいなのが優位を保ち続けるのは容易ではない。彼らの蓄積してきたノウハウはすごいから。

 とはいえ、彼ら紙雑誌もつまらんプライドでもたもたし続ける可能性もある。それまでに群雛のほうが力をつければ、彼らとは別の世界を構築して、彼らがようやく電子に移行したところで揺るがない橋頭堡を構築し終え、対抗し得るかもしれない。


 結構そこらへん、乾坤一擲の勝負な面白いところはあるけど、そこで、勝負をしない、うちはうち、って言うのも正しいんだけどね。

 まあ、私的には群雛みたいな存在がとても面白いので、頭の古い連中にはいつまでも紙と電子書籍がつぶしあうなんて20世紀の世界観でやっててほしいと思うけどね。あの、もう紙と電子書籍の併売なんてとっくに始めてて、しかも全体では電子書籍と紙書籍は補完関係と相乗効果上げつつあるって、数字も出てるんですが。まあ彼らには目が節穴のままでいてほしいと思う。

 どっちみち、群雛は社会実験としての規模を拡大しつつある。注目されてるところであるけど、やっぱり挑戦者側なのだから、どんどんいろんなことに挑戦していく方がいいし、そのためにも読んで参加、書いて参加という感じで、好きだからやるというのでいくのが楽しいし、正しいと思う。そして、好きで楽しいことは継続しなきゃ、モッタイナイ。


 そして、もし継続していけるなら、それは喰い合いではなく、高め合う関係で既存の雑誌と張り合っていけると思う。その力が生まれつつあると思う。

 昔、文章を書くのは文芸という芸かもしれないけど、私的にはホビーという捉え方もあるんじゃないかな、と書いたことがあったと思う。芸術というともう専門の教育うけて、生活できるぐらいの利益も、社会で通用する名誉も出して、ってマナジリ決しないと出来ない感じになっちゃう。

 それはそれであってもいいけど、でもそうでない楽しみ方もあるんじゃないかな、と思う。プロとかアマチュアとかじゃない軸で、本当に面白い、ほんとうに楽しい、を目指せる懐の広さ、自由さのある場もあっていいんじゃないかな、と。

 そういうホビー的な文章のニーズを拾いつつ、既存文芸雑誌に拾えないところも拾えるような体力を持てれば、群雛ってそこで1周年やれたけど、これからも継続していけると思う。

 いつだって、新しいことは、ニッチなところと、既存のものが拾い損ねたものを拾うことで生まれる。

 群雛はそこで、雛の群れでもあるけど、雑誌としても雛であったものが少しずつ、成鳥として、そしてあらたな卵を産んで、さらに雛を増やす方向になっていくんだと思う。




 私は群雛の運営には携わってないので、こう勝手に思っているだけなんだけど、ほんと、はじめ楽しみで始めたものが、ほんとの社会実験になっていくんじゃないかと思うし、その少し先には大昔の文芸運動みたいなものになっていくような期待をしてしまうのね。
 当時とはいろんな環境や規模が違っても、質的にはそうなるんじゃないか、と。

 で、その質が変わるというのが、こういうもので一番意義があることだと思う。本質的ってそういう意味だし。


 まず1周年続けてきて、毎号がんばって書いてくれた人、編集してくれた人、買ってくれた人。

 みんな、ありがとうと思う。1年間、本当にお疲れさまでした。ほんとうに素敵でした。


 ここからどうなっていくのか。1年前私は書かせてもらいながら期待していたけど、それは1年経って、期待だけではなくなった。こうしてレビュー書くことでも携われると思う。

 もちろん絶対に上から目線になってはいけない身分だけど、私自身も変わっていこうと思うし、特にレビューすることで、すべてが変わっていくように携わろうと思う。


 これからまた1年、よろしくです。


 変化はいつだって、楽しいわけだし。

 楽しい方に賭けないわけにはいかないよね。




0 件のコメント:

コメントを投稿