2015年10月28日水曜日

「月刊群雛」2015年11月号レビュー。





 はい、真夜中の発売即ポチ。電子書籍は真夜中でもすぐ買えるのがいいよね。

 で、実はそれで、すぐに読みたいのに、別件でしんどいことがあって、頭痛いし眠れなかったのです。

 それでも読んでしまったから、やっぱりいいのです。というか、すごくいい。




 では巻頭から。




「自分でやる」職業作家の羽ばたき方 大原ケイ


 巻頭コラム。

 冒頭の村上春樹のところですでにそうだよねと思ってしまう。いわゆる出版業界人っていろいろと無責任すぎるよ。

 そこからあと、ホントそうだよと思うことの連続。

 だいたい、作家って和服着て、執筆っていって原稿用紙くしゃくしゃして、打ち合わせで編集部でお茶出されて、やってると黒電話で編集さんから原稿催促されて……っていい加減そんな伊佐坂先生感覚でやれるわけないだろ、と。原稿うちだ原稿うち。原稿用紙に手書きガー、本のめくる感覚ガーって、『バカジャネーノ』と思う。
 めくる感覚欲しければ文字が印刷されてる必要ないだろっ、と。物理的な紙本は結局はオンデマンドでいいじゃん。装丁とか造本とかもたしかに大事だけどさ、それ以前にまず内容だろ、内容の前に作家としての努力だろ、作家ができる努力ってのは今『自分でやれることは自分でやる』ことだよ。伊佐坂先生夢見てんじゃねーよ、と私はいつも思ってるけど、ほんとおんなじ感じでした(ヒドイっ。

 でも、日本市場だけを見ちゃダメ、ってのでものすごく具体的なことが書いてあって参考になる。そりゃそうだ、と思うけど、そこが結構出来ないんだよね。

 非常に明快で気合が入ったコラムで、読んでて力づけられた。

 インディーズ作家が元気じゃなきゃ、物語の世界全体が元気になるわけないよね。




「99%の真実と1%の嘘」夕凪なくも


 ぎゃあああ! 怖いわー!! マジで怖いわー!  いや、こういう道具だて、メールとかメッセンジャーやってると思うことは良くあるけどね。回線の向こうで何が起きてるかという想像はしちゃうよね。

 でもね、それが…….。ネタバレすると勿体無いと思っちゃうのでマスクするけど、ほんと怖い。

 強いて言うなら、確かにそう、「真実」が一番怖いよね、という。

 いや、よくできてるわー。冒頭からそこはかとなく怖い感じなんだけど、それ位以上にすごく怖かったです。こういうのが得意な作者だと思う。






「オルガニゼイション」 黄昏の街 波野發作


 今回、すごく読みやすく整理されてきてて、私としては別件で頭痛してんのに、すっかりなんもストレスなく、話を楽しんでしまった。

 そしてでかい勝負に出たなー、という感想。その勇気を買いたい。いよいよ最終回クライマックスに向けて期待が高まる。スペオペとして最終回前にやるとしたらこれだよね。大いに納得。

 シリーズとしてSFの類型を作品として制覇するというのも目標なんだろうなーと思ってたけど、それもますます成功してる。

 安定感が増えながらその安定を上回る冒険してるのがいい。

 準備期間長かったんだろうなあ、とも思ってたけど、ほんと、発表するたびに洗練されてくので楽しみにしてるんだけど、それを裏切らないので私得に読んじゃうの。

 途中、懐かしい工夫があって、おおー、と思った。ほんとに多用厳禁なものだけど、使いどころが良かったと思う。昔この方法使った別の人の作品見たことを思い出した。




 群雛って結局みんなそうなるので、読む人は楽しいんじゃないかなーと思う。




 次回最終回、シリーズというよりシーズンの締めという最終回とのことだけど、それでいいと思う。

 我々はみな、基本的に『終わらない物語』を書いているのだから。この作品はまた新シーズンもあるべき世界だと思うし。でもそのためにはシーズンをしっかり締めなくちゃいけないのね。一瞬寂しくても。




「リアリストの苦悩」くろま


 最終回、しっかり持ってきたなー、という話で、ここまでの物語としての右往左往が集約されるのはそりゃドラマとしては当然だけど、それを「えっ」と思わされる図で閉めていくのはちょっと想定をいい意味で超えてた。

 ああ、むしろこれをやりたくてここまでやったのかな、と思うほど。いい意味の奇妙さが出た。良い最終回だと思う。狙い通りでは。

 これ、前もって伏線がさらにしっかり入ってて合本で一気に読めたらさらに楽しかったかも。これが連載の難しさなんだよね、ほんと。
 でも、合本で出てまた楽しめると思えば2度楽しいわけで、やっばりそこでもお得かも。

 ほんと、連載お疲れ様でした。ステキでした。




「Yの悲劇」竹島八百富


 ほんと、Yくんの前途に幸多かれと思った。

 中学生ものの、まさにリアルなキャッキャな感じがよかった。

 起きたことは悲劇だけれど、なんかネタバレっぽいかもだけど、さくらももこ的な感じの悲劇だよね。

 これが普通に悲劇の文体で書かれてたらYくんが本当に救いなくかわいそうになるなので、それを巧みに回避したこれが最適解だと思う。むしろ書き手のYくんへの愛が感じられてるのが良かった。

 力量ないとこうはいかないもんね。

 人生って不条理だもんねえ。ほんと。でもその不条理を人間は生きて、そのなかから楽しみを見出していくしかない。

 実はYくんみたいな悲劇は私にもあったのよ……(衝撃の告白)。




「Twitterでクリックしてもらうには?」鷹野凌


 すごく実用的なノウハウで助かります。実はこの連載見てTwitterの運用を限定的に再開した私である。うむ。




「夏のかけら」幸田玲


 ずいぶん良くなったのは気のせいとは思えない。話が連載3回目なので落ち着いていよいよというところなのか、前よりグググっと話に集中できる気がする。

 あと、何気に段落の色彩の濁りがかなりなくなったような。描写も前よりモチーフに効いていて必然性の結びが強くなったような。

 もともと力がある人なので、そこをあとひと工夫すれば、と内心思ってたけど、今回はそれがうまくいってて、描写の風景が心象風景として演出されてるのが素敵。

 全体としてのトーンがちゃんと見えてきて、読んでて安心して内容に集中できた。

 受苦、悲しみの受容ってモチーフだと思うんだけど、これはなかなかできるものでもないし、ドラマチックに解決するものでもなかなかない。事実個人的な話ですまないけど私もその中にいるので、その悲しみの受容から真の魂の再生に行ければ、すごくいろんな人の心を動かしていくと思う。ただすごく力量がいるので、この挑戦には注目してしまう。ハードルが高いモチーフに挑んでるなと思う。でも、そのハードルを超えられるじゃないかな、と、不安が期待に変わった回であった。

 ほんと、次回が楽しみ。




「アイポッド・トーク」神楽坂らせん


 作者の持ち味が遺憾なく出たSF。

 すごくはじけた感じで、のびのびと書いてるのが良い。道具立ても素敵なものが多いし、シーンの出来も素敵。出てくるガジェットで、ちょっとやりすぎかな、というぐらいのもあるけど、やりすぎて正解と思う。あそこで抑えたら空気が変わりすぎるので、全体のトーンから行ってあれがいいと思う。むしろそれが私、気に入っちゃったし。

 作り込み、詰め込みがすごく良くて楽しい。一部用語がわからんという難癖つけるのいるかもしれんけど、そんなのはググればちゃんとわかると思うので無視して書いていいと思う。そんな凡庸な話は他で読めばよろしい。なので、かえってこうしてはじけるように生き生きと描いたのは最後まできっちり楽しかった。物語要素の幅も広い。いい作品だと思う。ほんと、何度もになるけど、はじけるような活発な話で楽しい。



 いいなあ、こういうSF書けて。私なんか、SFやってて悲しかった思い出が、未だにフラッシュバックしちゃうのです。ほんと、羨ましい。私は、一番好きなSFが、のびのびと書けないほど未だにしんどいのです。




「現代日本の世界」加藤圭一郎


 すごく苦しさが伝わってくる。私もそういう苦しみ今でも持ってるし。共感してしまう。

 竹島さんも以前書いたと思うけど、今の日本ってほんとどうかしてる。でもそれは政策とか経済とか、そういうもので解決できないほど根は深いし処方箋ないしで最悪だもん。個人には大きすぎるし、社会的対応なんてやってもそれはあまりにも雑でガサツすぎる。

 そういう叫びを感じたというか。私も叫びたくなるそういうことを書いてくれてるのですごく私も心が救われる。実は私もこういうところやってるので、共感度高い。なによりも実は難しいモチーフ、下手に書くとただの愚痴になりかねない社会問題への問題意識を「文芸」に引き上げてる。いい。うちのはただの愚痴になりかけてたもんなあ。それを修正するのが必死だったのを思い出した。

 ちなみにこの批判は、『無意識的』とインタビューで作者が語ってるけど、そのとおり、対象は日本だけじゃない。というか海外でもっと苛烈になってる現象だと思う。そこで私自身、「鉄研でいず2」で特別編「アスタリスクは止められない」なんてのをいきなり書いてたりする。

 言っちゃえば、現代の資本主義と情報社会が行き着いたすごく醜悪な状態なんだよね。しかもそれが国際的に組み合わさって、いまさらどうにもならんかもという。

 どうにもならんなりに蹴っ飛ばすしかないと思うんだけどね。私個人としては。
 蹴り返される覚悟で。




「ひまわり」きうり


 いい意味でシリーズ化された「予言写真」をモチーフにしてて、おおー、ブレないなーと思った。そこがぶれない上に毎回の工夫が積み重なってきてて、ますます読んで楽しい。

 今回はシリーズの中盤になる感じかな? 予言写真というモチーフの掘り下げに、なるほどなー、と感心させられる。写真って確かにそうかも、と。今回はそれが出たのがすごくいい。その上で事件部分のシーンの鮮やかさが焼付くのが成功してる作品の証だなと。これも密度高くて素敵。

 中盤だけど、慌てて締めに入らず、更に深めて欲しい。読んでて楽しかったので。




「表紙」魅上満


 おおおおー! すげええ。

 インタビューにしっかり書き込まれた解説を読むと、おおおおー、と初見で思った意味がよく分かってよい。

 絵を描く人って、群雛の表紙だけでなく、あんまり自分の絵について語ってくれないのがいつも寂しいというか物足りないと思っていた。絵だけですべてを語れ、なんていう教育がされてるんだろうけど、それができるエラーい画家なんざ歴史上にいくらでもいる。作品ってのは、とくに向上心ある人ほど、積極的に種明かしして、PDCAの計画して実行したあとの確認(Check)を大事にする方がいいと思う。そこから行動を変えてかないと、技量向上のループにならない。

 無粋だとそれを言う人もいるだろうけど、私は無粋でもいいと思う。そんな粋だのなんだのって言える段階じゃないのが私だし。そういうのは粋じゃなくて、『粋がってる』んだと今は思う。自作について語るのは全てタブーじゃないと思うのです。




 あと、表紙デザインがすごく攻めてる。すげええ。本当の雑誌っぽい。なんか、最近電子書籍書店でこれまで見上げるしかなかった文芸雑誌と群雛が並んだりするので、「おおー!」と思うのです。見てくれ! 負けてないぜ! みたいな気になりそうでよい。まずこれをできるようになってから、電子雑誌といいつつオンデマンドで紙でも出す雑誌としての書影の最適解を目指していくんだと思う。





総括


 うぐぐ、この号にも載りたかったなあ……、と思うほど充実した号でした。
 個人的にはいま私、「鉄研でいず」と「プリンセス・プラスティック」と「雛の四季報」しか書けないんです、というぐらい自分見失ってるなう、だったりしますので、あんまり偉そうなことは言えない……。

 ただ、みんながのびのびと書いてて羨ましいです。私、ほんといったい、なにやってんだろ、というぐらい。




 うん。この号の総括はまたいつかします。

 今はただ、みんなが眩しくて仕方がない。ごめん。

 

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