2015年10月4日日曜日

月刊群雛2015年10月号発売後レビュー・若干遅れてすみません。


ちょっと遅れました。すみません。



表紙


 いい。ハロウィンだねえ。色彩が良い。ステキである。

 だが、デザインもキレていて「おおー!」と思った。凝ってる。いい仕事。

 電子雑誌の書影というのは難しくて、サムネイルになってしまうのだから文字を入れるべきではないとの考え方もあるだろうけど、やはり雑誌である以上、既存の雑誌フォーマットにある程度合わせたほうが馴染んでもらえる感じがある。単著ではないので著者陣を紹介するのも必要だと思う。そして群雛の場合、紙でのオンデマンド出力もあるわけで、それを考えると電子雑誌的な表紙デザインというのは成立するだろうか。まだまだ既存の紙の雑誌に近いデザインのほうが馴染んでもらえると思う。

 デザインは機能性と意匠性という矛盾するふたつの要素という問題を解決するものである。だからデザイナーが出すぎるのも困りものだし、かといって存在していないのも困る。というわけでデザインというのはすべてを含んで問題を解決するものなんだなと思う。デザイナーは単なる図案屋さんではない。そう思うと、今回のデザインはかなり凝っていて、それでいて読んで楽しい。全体としても表紙イラストをよく理解して、ハロウィンらしい楽しさの演出になっている。うまい。




BOOK☆WALKERがインディーズに取り組む理由(理由) 橋場一郎


 新たな出版文化がインディーズから生まれるという感覚は私も同じ。ほんと、既存の本が廃れたとしても、活字文化、書籍の世界は死なないと私も思っています。こうして電子書籍の世界を広げ、便利にしていく立場の人が群雛に書いてくれるのはすごくありがたい。一緒にインディーズ盛り上げていきたいと思ったのです。二次創作への取り組みなんかも興味深い。二次創作は今黙認でやってるけど、それを改善したいと。そういう動きをしてくれるのはとてもいいことだと思う。楽しみ。




オルガニゼイション 波野發作


 波野版方程式。

 方程式としての組み立てもいいし、先行作品をよく研究したのがよく練り込みに出てる。方程式の解も、おおー、なるほどなーと思った。

 美しい終わり方の解が提示されるラストは個人的に映像を思い浮かべながら読んだ。アニメ「カウボーイ・ビバップ」の一つのシーンを思い出しちゃったよ。

 これ以上はネタバレになってしまうので自粛だけど、一言。『まさに秀逸』です。

 毎回それぞれの言葉の物語の中での効き方が詰められてきたような感じで、以前あった饒舌すぎが取れてきて、読み味がすごく良くなったような。どんどん上手くなっていくのが凄い。

 ほんと、次回最終回への期待が止められない、と思ったらあと2回あるらしい。あと2回も楽しめると思うと嬉しい限り。




一滴の光にも 川瀬薫


 夏の終わり、だねえ。短編小説で純文学的方向。

 しっかりモチーフに対して要素が効いていて、夏の終わりの寂しさ、夏の熱気の名残、そして夏の色彩が感じられる。ついついこういう題材だと膨らませすぎて余計なものが増えたり、下世話な要素を入れがちなんだけど、そういうのを廃してストイックに引き締まった描写が良い。よく研究している感じがあって、私も襟を正して読んだ。端正な感じがしてよい。




リアリストの苦悩 くろま


 連載。

 サスペンスドラマ方向に作った、とあるとおりに、ドラマになってる。内心このキャラクタをやるのは俳優の誰がいいだろうか、とか、音響効果とかBGMとか画面のカット割りはアレだな、とか思いながら読んだ。結構2時間ドラマ、ついつい見ちゃうんですよ。この作品、「火サス(火曜サスペンス劇場)」のテイストがしっかりあって、狙い通りでは。

 キャラ数が多いのも「火曜サスペンス」風味なので、連載という枚数だからなんとか行けるかもだけど、もし次に小説としての完成度を上げるとしたらキャラ数を制限して、キャラの彫り込みを深くするのがセオリーだろうなあと思う。100枚でキャラ1人というのが多く言われている経験則だったりする。この作品では大きな問題としてそれはないけれど、今後やっていくとしたらそういう計算もあるかもしれない。まず今のところうまくいっているので、今後も楽しみに読んだ。

 作中に寝台特急が出てきたり、ホテルのラウンジが出てきたり、事件が動いたり。ほんと火サスの世界がよく出てる。とくに話が動く「転」のパートなので、しっかり前の掲載回を復習して読むと良いかも。

 そういや寝台特急、もうすぐすべて無くなるんだよね……。代わりに周遊列車がJR九州に加えてJR東・JR西でも走るんですよ。火サス風味の話にどう取り入れられるだろうか。そういう興味も出てしまったなり。




夏のかけら 幸田玲


 うぐぐぐぐ、いつもながら色んな意味でレビュー書くの泣かされてる連載作品。

 で、それがなんでかなーと思ったんだけど。

 物語って、基本的に楽しんでもらうとしたら、全部詰将棋のように描写がその動き、キャラの行動や心情に効いてないと、読者としてはうーん、と思わされてしまう。

 なぜマサラ・ティーでなくてはならないのか、なぜアジアンカフェでなくてはならないのか。その改装の話がピボットになる要素だとしても、吹き抜けを作る目的にちゃんと真壁仕上げという言葉が効いているのか。真壁と言われて読者が何を想像するのか。どうにも何を表現したいのかが効いていない気がする。真壁はどういうものであるのかを読者にいきいきと想起させることで、キャラクターが何を思ってそれを設計しているのか、図面を引いているのかの意図、意思、心情が見えてくる。読者が読みたいのはそこだと思うんだけど。どうにも並んだ言葉が有機的に機能していない気がする。

 それでも少し雰囲気が出ているような気が前回より少しするので、核心的なところではドラマがあるんだと思う。でも、読むというのは根源的に作業なので、その作業を超えて読者の心を動かすには、言葉を並べる時に、その言葉がなんの心情に結びついているか、という描写の軸がないと、どうしても読んでいて物語は饒舌になっていっても鮮やかにはならないような。

 たとえばこの作中の店舗改装のシーンでも、どんな気持ちでその真壁を見て、どうしてその真壁に石膏ボードを貼って大壁にしようと思ったのか。たとえそれで建物の空間構成を変えたいとしても、なぜどうして変えようと思ったのか。なぜ? というのが浮かぶ。

 その変えようとした動機には必ず、同じキャラクターであるから、通底するモチーフである悲しみはその行動のどこかに入るのではないだろうか。
 そういう心情の微妙な動きを観察して、書けるかが課題なんじゃないかと思う。せっかくの知識が描写に繋がっていないのが惜しい。これが強く物語につながればきっと豊かな表現になると思う。

 表現物には、すべて表現としての強い意味、強い意図がなければ、それは成立しない。逆に言えば、強い意味と意図がないものが並んでいると、それはほんと、ただ並んだだけになってしまう。

 それでも少し物語が動いている気がするので、そこを解決すれば本当にいい作品になると思う。

 そして、なんだかんだ言って最後まで読んでしまうので、「パワー」はあるんじゃないかと。潜在的なこれがあるってのはすごく大事。

 今後に期待。




あなたのTwitter、何人読んでる? 鷹野凌


 まさかの編集長登場によるショートコラム。

 いいなー、フォロワー多くていいなー、って、私のアカウントは震災の後、Twitterが急激につまんなくなったので準放置状態にしてしまったのですが、また少しツイートしようかなあ、と思った。なにしろそうして放置している間にツイッターAnalyticsなんてものができていたのにびっくり。

 うむむ、研究して見る価値はありそうだなあ。こう思わされるところで成功してるコラムだと思う。短い割に情報として生きている。




いまどき子供マネー研究会 宮本清久


 子供の金銭感覚の現在についてのコラム。

 おおー、と興味深く読んだ。たしかに今の子は情報化社会、いろんな収入源があるもんねえ。たしかにWeb時代の子たちはそれできるもんねえ。子供書くときに参考になりそう。




月曜日のコントローラー 和良拓馬


 作者がこれまでのスポーツエッセイから物語に踏み出した作品、ということは予告で見てて、どう来るかと思ったら、スポーツ観戦での出来事を書いている。フィクションといいつつ、ありえるだろうなと思わされるモチーフ。

 なかなか難しいところに攻めに行ってるなーと思う。これ以上物語として作りこむとウソ感が出てきちゃいそうなので踏みとどまったのは正解かもと思うけど、物語としての鮮やかさ、心をつかむところについてはその中で苦しんだと思う。

 規範批評になってしまうのでよそうかと思ったけど、この話、語りを自分主体でやってるのは手堅いけれど、その場合は観察の眼をもっと鋭くする研究が今後、ありえるかなと思う。

 物語には高低差が必要。高低差には対比する対象物が必要。それに留意していけば物語としてもさらにいいものになっていくと思う。

 作中人物が自分のなかで答えを出す、という形式もありえるんだけど、できれば答えは自分で出さないで、人物や風景とか出来事そのものに語らせるほうが、書き手の心も動き、読み手の心が動くのです。物語の一般法則だったりする。私も昔それ理解してなかった時期があって、その頃を思い出した。

 でも、モチーフの選び方は良いし、十分楽しめる。挑戦する気持ちを買いたい。

 さらなる挑戦が楽しみ。




現代音楽いかがですか? ハル吉


 すごく楽しそうに書けているので、楽しく読んでしまった。エッセイだけど、すごく楽しい。なるほどなあ、こういうの群雛に載せるのも手だなあと思った。

 現代音楽の紹介なんだけど、紹介の文章がイカス。やっぱり上手いなあ。

 私は音楽に疎い方なので、いろいろなるほどなー、と感心した。面白い。

 さすが、この人の実力はすごい。


ああっ、香椎2尉! 米田淳一


 自分の作品なのでレビューはいつものようにパスします。

 いつもの持ちキャラの香椎さんが連合艦隊新淡路基地で繰り広げるアクション、です。ドローンとか新小銃とか、そんなのが出てきます。士郎正宗せんせーがエロにこる前の作品を面白く読んでた人は是非。

 でも、言い訳。香椎さんの食事がギガカロリーなのは添加剤入れてるものあるし、メガ盛りがあまりにも普通に今あるのでギガというのもあり。でも香椎さんはそれだけ燃費が悪いのです。もともとシファたちの体作るための実験に参加してるのもあり。

 編集さんに「さすがにギガはやばくね?」と言われたけど、「ギガなんです(キリッ)」というやり取りがありました……。香椎さんはヤバイのです。




Zにやさしく くにきたすく


 不思議な読み味。ホラーなんだけど怖くない。むしろ幸せそうに読んじゃった。

 なるほどねえ。Zってそうなんだろうな、と思いつつ。短いけれど読み味が残るのが面白い。

 この不思議さがショートショートの味だなあと思う。


想像の創造 バカエル


 表紙。よく描けてるなあと思う。描き込みも色合いも、丁寧な作風でいい。




あとがき


 おおー、と思うことがいくつも。

 ほんと、群雛は歩みを止めないねえ。楽しみ。




■総括


 読み終わるまで時間かかんなかったのにビックリ。ほんと、最後までスルスルと読んでしまった。

 それだけみんな書き慣れてきたのも、書き慣れた人が集まるのもあると思う。

 技量的に見るべきものも、また挑戦心もあって、相変わらず楽しい。

 これまで参加しなかった人も、どんどん参加して欲しいと思う。楽しいから。


 読んでて、ああ、私も「うまくなりたいー!」と思ったのです。

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