2015年8月25日火曜日

激遅・月刊群雛2015年08月号レビュー・作業の都合で遅れてすみません。



 7月29日に読んだ08月号のレビューを今更載せるという。ごめんねえ、JAM(国際鉄道模型コンベンション)出展準備でバタバタしてて載せられなかったのよう。すみません。まさかそれが09月号発行後になるという……不覚!



 でも、08月号は真夜中、発売直後に買って読んで、ほんと、鮮烈でした。ちょっと読んで、それで寝ようかと思ったら、最後まで読んじゃって、ちょい寝不足なぐらいでした。でも寝たいより読みたいが勝っちゃうの。それぐらいグッジョブ!でした。



 そのため順番めちゃめちゃです。なんでかというと、レビューというより、すごく読んで語りたかったから、とにかく気持ちが先です。

とある陛下の遺言状 小林不詳


 中でも小林不詳さん!! 今回(08月号)みてて、うおお! と思った。やりましたね!! すごい力作だった。アイディアとしては思いつく人がいるかもだけど、あそこまでガッツリ書き込むのはすごく大変だったと思う。でもその結果、読んでて「おおー!」の連続。「才能の無駄遣い感」が最高だった(超絶に褒めてます)。時間かけて書き込んだのが成功してる。思いつきでウェブに書いちゃう人がいそうなネタではあるけど、でもここまで作りこめば、その手のとは次元があきらかに違う出色の出来だもん。すげえええ。読んでて震えました。

 ネタ的には岡田斗司夫さんが昔書いた「世界征服は可能か」という面白い本を思い出したんだけど、それをはるかに超えてる。あちこちすごく練りこまれた感・作りこみ感がびっしり。    

 で、もう、読んでて面白くて汗が出てくるの。

 面白い本って読むと汗がでる、って昔の読書家が言ってたけど、まさにそれ。っで、私もそれを目指してるんだけど、ほんと、やられた! と思った。

 魔王から見た魔王の魔王たる所以、みたいな話なんだけど、たとえば魔王が「皆殺しにしろ」という指示を出すにあたっての留意点、つまり絶望を演出して人類をいかにビビらせるかというノウハウの話とか、もう読んでて「なるほど、魔王はそうでないとなあ」というこの説得力のすごさ!

 もう引用しちゃうけど、殺戮について、『また、生きている人間それぞれに「明日は我が身かもしれない」と切実な死の予感を与えることも忘れてはいけない』って。もうふるってるよね。たしかにただ単調にザクザク殺すんじゃ魔王じゃないもんね。しっかり怖がらせないと魔王じゃない。だから『どくさいスイッチ』でプチッと抹殺ボタンおして一気に抹殺しちゃダメなの。しっかりじわじわとやらないといけない。しかしその例外があって、というところも、おおー、よく考えられてるよなあと思う。この密度感がたまらなくいい。


オルガニゼイション 波野發作

波野さんの戦闘ロボットというかパワードスーツというかモビルスーツあるいはモーターヘッドのSF、これまたいいんだわ。

 FSSの感じとボトムズみたいな感じとか、ほんと、読んでてすごく楽しい。少し『星界の紋章』を思うところもあるけど、重量感、スピード感もいい。それがメカの慣性重量かかった動きみたいに感じられるのがすばらしい。

 最後にSF的な仕掛けがどーん、ってのもいい。世界の作りこまれ方も素敵。

 この作品について、すごく個人的に色々語りたくなるのね。とても私の好みでもあるし。四季報主催・『雛の夜会』やるなら、まず第1回はこれでやりたいと思ってるの。すげえ楽しくなりそう。男臭いのもまたいいよね。アメコミ的なGoodlife、BadFriendみたいな感じもまたカッコイイ。でも決して一時期のアメコミにあった雑味がないのね。すごくがっちり書かれてるのが楽しい。

 この作者さんのSF、どんどん洗練されてる気がするのは私の気のせいではないと思う。どんどんモチーフと描写の軸が太くなってますます「安心して(物語の推進に必要な)不安を楽しめる」感じに。読者も安心しきっちゃうと予定調和で面白くないけど、でもいい物語は「演出としての不安」を作ってくれる。古今東西の名作も当然そう。アクションの背後にある微量の不安さが、すごく話を引き締めてくれててテンション高く読める。

 文学としてのロボットアクションな感じがいよね。うちのはアニメ風味って言われるけど、この人が書くと文学になる感じ。そこらへん、羨ましくも思う。



絆 竹島八百富 


 竹島さんのホラーもいい。すごく悲しくて、すごく奇妙で、すごく切なくて。持ち味の上、さらにこうもってきたかーという。
 すごく泣きそうになった。いつものキレもさすが。実力通りだけど、さらに上乗せしてきた感がいい。それでまだまだ書けるだろうなあと思う。
 いい作品なんだけど、余裕たっぷりで狙い撃ちで演出してる安定感で、そのうえしっかり怖さ、悲しさを自在に出してるんだもん。すげええ。

 内容的にはミステリ要素が強くて、すごく楽しませてくれる。怖い感じ、真夏のジリジリとくる中での対峙っていうオープニングからももうテンションが聞いてて、ぐいぐいいくのね。そしてサイコな感じも入ってくるし、社会問題化してる家族の話まで、まさに畳み掛けてくる。でもそれが一気に不思議なホラー、奇談としてまとまってくるのが凄い。

 ぶっちゃけ、この歳の子供がこういう決断しちゃうのって、すでにすごく悲しくて泣ける。もうやられたら親は半狂乱になるのは必然だなと。そういう必然性を軸に奇妙さが構築されてるので、この不思議な話が安心して読めるのかなと。

 不思議な話ってのは、作者が不思議の霧の中にいると不思議以前の話になってしまう。だから明晰な頭脳が絶対に必要なのね。それを感じさせる。



光を纏う女 泡波亮作




 泡波さんのお話も、うおおお、こええええー! とドキドキしながら読んだなあ。モチーフがすごくいい。ちゃんと「輝き」が見える。色彩感もある。でも怖さの持続感が独特。

 あとで聞いたらホラーではないとのことなんだけど、たしかにホラーの色彩よりもすごくこの女性の美がモチーフなんだなと読み返して思った。すごくエロスな感じ。で、なんで 私がそんな怖く思ったのかと考えると、エロスってのは、どこか怖さと繋がってるものなのね。そもそも生の活力だから、必然的に物語とする上で光と影でどこか死と破滅が対比で出るのはある意味正しいのかも。で、私、そういう影にすごく敏感なのね。ひとつ持ち込まれた要素がそれを強調してるし、やっぱり怖い……。でも、苦手な感じではないのね。

 モチーフの重層感がいい。分厚い感じ。そしてたしかにエグいよね。なるほど。





 晴海さんとくみさんの連載最終回も、ほんとお疲れ様でしたで、すごく感じ入りながら読んだなあ。晴海さんも攻め続けたけど、くみさんの努力もまたすごい。

井の頭cherry blossom くみ/魅上満


 井の頭cherryblossomのほうは、ぶっちゃけレビューで間接的に私もムチャぶりしすぎたかなと思ったけど、最後まで繊細な世界でよかったなあ。繊細なんだけど、宇宙開発という対比対象があるのがあるからさらに繊細みたいな。やはり物語に高低差、対比は正義。良い演出でした。ほんと、おつかれさま。意欲が生きてましたね。

 星の海、なんて言葉があるけど、私は宇宙を海と思わないところがあったの。海に比べて、宇宙はあまりにも過酷すぎるから。それは「激闘!宇宙駆逐艦」で書いたんだけど、それは船の上から見る海・宇宙船から見る宇宙だったのかもしれない。実際泳いだり宇宙遊泳する海と宇宙だと、また感覚が別だよなあ、と。なるほど!と感心した。

 しかも、この二人、ちゃんとこの最終回で、「二人になる」のね。それがすごく素敵。実はこういうの好きだったりする。私も自分の作品で香椎さんとミスフィでやろうと思ってたんだけど、やられちゃったなあという。

 ほんと、結びも美しい。素敵。こういう二人、好きだなあ。

 魅上さんもおつかれさまでした。世界観と物語によく合ってました。

ギソウクラブ 晴海まどか/合川幸希


 晴海さんのは、もう、最後はこれしかないよね、という。狙いも明かされたけど、なるほどね、目標達成だよねという。それが悔いなく恨みなく、思う存分に書き込まれてた。それ故に読後感の「ああ、この物語を読む体験が終わってしまうんだな」っていう、若干の寂しい感じが、充実した連載の最後の有終の美だった。「キャッキャウフフ」なんて冗談めかして軽く言えないほどの充実だったなあ。

 読み返してまた思うのが、この子たちが、これからどうなっていくのかな、というのもまた考えていろいろ思うのね。いまだから私は思えるのかもしれないけど、こういう楽しい子たちって、結局その後も普通と違う生き方するんじゃないかなあ。才気あふれるっていうか。だって、こういう感受性あるんだもん、何やってもどっかで並みでは収まらないよね。そう思ってしまうほど世界にどっぷり浸かって読みました。

 合川さんの挿絵も品格のある感じが最後まで素敵でした。ほんと、文芸雑誌らしい感じが、魅上さんの「井の頭……」の画風と対比ができてるのが群雛らしくて好き。雑誌のカラーが一様になってしまうのは雑誌としてあぶない方向だもんね。



あなたとは関係のない世界 初瀬明生


 初瀬さんのも意欲作だな~と思った。中間小説とされそうだけど、私的には物語構造的に関係ってのを攻めてるので純文学に分類してもいんじゃないかと思う。ほんと、純文学の定義が文芸の芸術的な表現を主眼に書かれた作品というなら、ほんとこれその方向じゃないかなと。コントみたいな今回の芥川賞よりずっとむかしの芥川賞向きになってるかも。そういうすごく難しいことに挑戦してるのがカッコイイ。一瞬?? ってなるけど、読み返せば返すほど、おおー、そうかー、ってなる味がいい。

 こういう文学って頭を使って、軽く知恵熱とめまいがしそうな感覚がして楽しい。



リアリストの苦悩 くろま


 くろまさんのは、むしろ王道的に「群雛らしいよなあ」と思う方向、ザ・中間小説みたいな、物語で時代を感じさせる演出。筆致も演出も実に渋い。といいつつ、すごく内容の重さがある。キツイよねえ。サスペンスという話だけど、サスペンスというのがむしろ惜しい感じ。単なる事件や人間関係じゃなくて、しっかり時代背景がでてるのね。

 特に私も42歳になったばかり、こういう昭和から平成に変わる頃の空気をすごくこの作品に感じた。ツーバイフォーなんてCMも思い出すなあ。あと、あの頃の田舎って、私個人の体験としてもたしかに神かくしありそうだったもんねえ。本当は今の少子高齢化の崩壊しかかった地方社会のほうがずっと怖いはずなのに、あのころ私はすごく夕暮れの田舎の風景が怖かったなあ。

 そういうことを感じながら読むので、単なるサスペンスとは思えない深み、練り込みがある。

 こういう作品があるのが群雛らしくていい。やっぱり私はこういう作品も読みたいのです。





個人メルマガから見えた「これからの出版に必要なこと」西田宗千佳


 で、ここでようやく巻頭ゲスト。ごめん。でもこれは、「現状とこれから」についての苦しみがよく分かる。そう、みんなそういうところで苦しんでるよなあ、って共感した。

 でもやってくしかないよね。苦しくても諦めずに実際手を打ち続けるのがプロだからねえ。
 苦しいからヤメるのはだれでもできるし、自分に具体的な手がないのに手があるはずだから何とかしろよと他人に振っても仕方ないから。

 みんな苦しんでるけど、こうして共有すると、それはそれでがんばろ、と自分に気合チャージできるような。



表紙


 ポップな感じが夏らしくて良い。祭りだねえ。夏だねえ。確かに今はお酒と煙草の表現がしんどい時代だけど、でもそういうのもやっていけるのが今の群雛の面白さかも。たばこはやらない、飲酒は作品で大きな進展のあった時のみの私でも、お酒と煙草の表現を追い出したところでどうなん、と思うところもありだったりする。健全なんて言いながら、じつはこの世の中どんどん余裕なくなってる気がするので、ちょっとだらしないぐらいでちょうどいいのかと私も思う昨今なのです。



 と、ちょっと書こうと思ったら1冊まるっと語ってしまうほど、すごく読んで語りたくなるのが群雛2015年08月号でした。



 レビュー考えてなかったのだけど、ほんと、一気に読んでしまいました。で、また読み返しても楽しい。





 というわけでこの次の09月号、本日発売になりました。というわけで即ポチ。すぐ読む前に、こっち、08月号のレビューをアップします。す、スマヌ…。

 このレビューの08月号はこっちのリンクから。

月刊群雛 (GunSu) 2015年 08月号 ~インディーズ作家を応援するマガジン~ | 紹介ページ



 09月号はこっち。これから読みます。楽しみ。

月刊群雛 (GunSu) 2015年 09月号 ~インディーズ作家を応援するマガジン~ | 紹介ページ

0 件のコメント:

コメントを投稿